チェーンロック
「それにしても……何もありませんね、この部屋」
瑞樹はちらちらと視線を周囲に飛ばして、そんな感想をこぼした。
「片付けんのはメンドいからな。掃除しやすくていいぞ」
「面倒だ、以外に言う言葉はないんですか? ナマケモノじゃないんですから、もっとキビキビとした言動を」
「馬鹿を言うな。動物で言うならナマケモノよりもコアラの方が怠けているぞ。あの愛くるしい顔を利用して人から餌貰って。ああ、ああいう生活が一回で良いからしてみてえ」
辛辣に毒を放つ瑞樹に対し、ゴロゴロと昇はカーペットの上に転がり抗議。それこそナマケモノ、もしくはコアラの如く、非常に緩慢な動作で。そんな義兄に何を言っても無駄だとわかっているのだろう。瑞樹は、
「じゃあ、これで私は失礼します」
そう言うと、長時間の治療における疲労をどこにも感じさせない足取りで立ち上がり、
「あ、もう一つ聞いておく事があった」
昇が起き上がり、真剣な声音で瑞樹に問う。
瑞樹もアパートの玄関前で立ち止まり、『何でしょう』と振り向く。
昇はその場であぐらをかきつつも前傾姿勢で、
「字さん、いや、高遠先輩にナンパはされてねえか? 自宅に鍵はちゃんとかけてるか? あの人、はっきり言ってストーカーだからな、部屋にあげるなんて絶対すんなよ。玄関に出てあの人と話す時は必ずチェーンロックをしろ。こっちからあの人のアパートに行くのも厳禁だ。行く時は必ず知り合いを連れてけ、腕っ節の強そうな奴を。いいか?」