不吉
「我に定められしは絶対の式、汝に添えられしは伽藍の理」
左手が取り込まれたのには一切構わず、昇は解体方程式を起こす。無駄な駄文がこそぎ落とされた詠唱は一秒とかからずに発せられ、
「ここに汝の敗北は必定なり! 滅っ!」
裂帛の気合いが口から迸ると昇の左手は青い液体からズボリ、と
抜ける。勢いを駆って走る左手は紅の光を伴って逆五芒星を描き、円を象る。方円と星との間に浮かぶのは血を思わせる禍々しき文字。
スライムの周囲に刻まれたそれは、まるで空間の彼方に引きずり込むようにスライムを束縛し、末端から崩壊を起こしていく。それでも最後の抵抗を試みようと言うのか、スライムはいまだに昇から離れようとしない。
「消えろっ!」
だがその抵抗も限界が訪れ、瞬間的に液体状の体を膨張させ、ビチビチと破片を通路に飛び散らせる。
自らの左手を右手で握り返し、何の異常も無い事を確認。
窓からは夜気をまとった風が冷たく流れ込んでくる。
視線だけを校舎外に向け、
「……クソッ……タレ」
罵倒は力無い尻すぼみ。
求める者の姿はそこにはない。
『死影』のような『他者』ではなく。
『友人』が端山昇という存在を消そうとしている。
…………
ここには、もういられない。
昇はどうにか先の見えない闇の通路に向かって走り出した。
一匹のカラスがそんな昇を見つめて、カァ、と不吉そうに鳴いた。