三日月の絆その4

不吉

不吉

「我に定められしは絶対の式、汝に添えられしは伽藍の理」

左手が取り込まれたのには一切構わず、昇は解体方程式を起こす。無駄な駄文がこそぎ落とされた詠唱は一秒とかからずに発せられ、

「ここに汝の敗北は必定なり! 滅っ!」

裂帛の気合いが口から迸ると昇の左手は青い液体からズボリ、と

抜ける。勢いを駆って走る左手は紅の光を伴って逆五芒星を描き、円を象る。方円と星との間に浮かぶのは血を思わせる禍々しき文字。

 スライムの周囲に刻まれたそれは、まるで空間の彼方に引きずり込むようにスライムを束縛し、末端から崩壊を起こしていく。それでも最後の抵抗を試みようと言うのか、スライムはいまだに昇から離れようとしない。

「消えろっ!」

だがその抵抗も限界が訪れ、瞬間的に液体状の体を膨張させ、ビチビチと破片を通路に飛び散らせる。

自らの左手を右手で握り返し、何の異常も無い事を確認。

窓からは夜気をまとった風が冷たく流れ込んでくる。

視線だけを校舎外に向け、

「……クソッ……タレ」

罵倒は力無い尻すぼみ。

求める者の姿はそこにはない。

『死影』のような『他者』ではなく。

『友人』が端山昇という存在を消そうとしている。

…………

ここには、もういられない。

昇はどうにか先の見えない闇の通路に向かって走り出した。

 一匹のカラスがそんな昇を見つめて、カァ、と不吉そうに鳴いた。