三日月の絆その4

仕上げ

仕上げ

「これであとは一箇所。俺のクラスで良いな」

静寂に漂う夜気を吸い込み、昇は体育館で一人独白する。

スニーカーがキュ、と鳴ると、昇はすでに歩き出している。

暗がりの通路は一言で言うならば不気味。黒、というよりは闇色の暗黒と、校外を照らす街灯の明かりが互いの存在を相容れないように反発している。

光は光を、闇は闇を。

魔は、魔を呼び寄せる。

魔術師の間に伝わる一つの格言。

状況はとにかくヤバイ。司影の『対極分割』をどうにかしなければならないし、仮面の魔術師の正体も突き止めておきたい。

何より、搭也殺害犯の対策は、これで大丈夫なのだろうか?

「……大丈夫もクソもねえよ。やるべき事はほとんどやってんだしよ」

愚痴るようにブツブツ呟きながら階段を上る。

『死影』に襲われる危険性を考えるなら、瑞樹と共に来るのが最善なのだが……

(俺が『死影』に追い詰められれば、殺しかねん)

 義妹の手を汚したくはない。

 それに、彼女が不覚を取るというのも考えられる。

 故に昇は、危険を承知で夜中の校舎に一人できたのだ。『死影』を誘い出すために。

 そして、ある結界をこの校舎に施すために。

「さて、仕上げだ」

静けさが支配する通路を歩み、昇が歩を止めたのは自身の教室。

カラッ、と乾いた音をたてる戸を引き、教室のど真ん中に歩いていくと、近くの机を少しだけずらしはじめる。教室の中心に何もなくなると、昇はポケットに入れておいた水晶石を握る。ポウ、と明かりが石に灯されたと思うと、水晶石は見る間にその見事な青さを変質させ、虹色の輝きを帯びた石へと変じた。

そして、一層握る力を強める。

ピシ。ひび割れが少しずつ入り始め、サラサラと砂のように先端から崩れていく。色鮮やかな極彩色の粉が撒かれた床を、昇は擦り込む様に左手を押し付けていく。