緋の花
とにかく、喋った。字久もかくやという程に。黙っていれば、彼女の心が砕けそうな気がしたから。
「俺もいますし、一人じゃないでしょう? 友人、とは言えないかも知れませんが、俺は先輩の事、良い友人だと思ってますよ」
それは、すでに玲於奈を労わって、というより、昇自身の不安を静めるため、と言うほうが適切な表現。
朝の青が、静寂という名の空気に支配される。なおも昇が何かしら会話を続けようと口を開こうとしたその時、
「……貴方は、優しいのね」
ぽつりと洩れた一言は、彼女には似つかわしくない穏やかさに包まれていた。眼を閉じ、膝の上で両手を組んでいるその姿はそれこそ一つの絵画にでもなっていそうだ。
「でも」
その感情はどう表せば良いのか。玲於奈の感情が読みにくい昇には今ひとつ判然としない。
「……それが、貴方の最大の欠点でもあるのよ」
消え入るような呟きは、何かを憂いているように昇には思えた。
風がさわさわと鳴くと彼女の栗毛色の髪が泳ぎ始める。
「……今日は、ありがとう。さよなら」
玲於奈は昇に背を向けて立ち上がる。
薄い緋の花びらが舞う中、彼女は彼方に一人歩み去っていく。
止めるべきだ。
このまま彼女を先に行かせては、取り返しのつかない事になる。
そう直感が囁く。だが、昇の足は何かに絡め取られたかのようにベンチから動かない。