対極分割
「これで、一応の手当ては終わりました」
瑞樹が息を一つつき、昇の腕から手を離すと彼は右手を開閉して具合を確かめている。『死影』のナイフに貫かれた上腕部の辺りには包帯が厳重に巻かれているが、それに血の痕は見当たらない。
あの後、昇はどうにか自宅まで戻ると瑞樹に連絡を取り、アパートまで出向いてもらったのだ。この怪我で住宅街をうろつくのは御免こうむる。
「……数日は違和感が出るかもしれませんが」
「いや、充分だよ」
頷き、昇は手袋をした左手でくしゃくしゃと頭を掻く。
「しかし、『対極分割』か。わかってりゃ、『魔封じの刻印』なんぞ使わなかったものを……『司影』の名前で気付けよな、くそっ!」
「そんなに自分を責めないで下さい……『対極分割』なんて、魔術師の間では『魔法』と呼ばれて久しいものですから。今回の件は致し方無い、不慮の事故です」
苦々しく呟く昇に瑞樹が慰めの言葉を掛ける。
「人格を切り替え、自身における魔力の容量を増やそうと昔はよく行われていた方程式だそうですが……人格統合の際に実行する『統合方程式』が常に変化するために、解を導き出すのは極めて困難。
それはさておき、これからどうするかの方が重要です」
もっともだ。事態は混迷するばかり。